事例から知る相続-直系尊属の場合
兄が亡くなりその前に父が亡くなっています。母と祖父母が存命なのです。兄には妻子はおりません。この場合相続はどうなりますか?
母親が相続することとなります。
養母・養父は直系尊属ですか?
直系尊属です。
弟が亡くなり、父母が相続放棄を行いました。祖父母は存命で、私と妹がいます。弟に妻子はおりません。次に相続を行うかどうかの意思表示をするのはだれでしょうか?
祖父母です。民法では、亡くなった人に妻子がいない場合の相続人について、直系尊属が先順位の相続人となり、兄弟姉妹が次順位の相続人となるとしています(民法889条1項)。このケースでは、祖父母は、亡くなった方の直系尊属ですので、兄弟姉妹よりも先に相続を行うかどうかの意思表示をすることになります。
被相続人が亡くなり、父母もその前に亡くなっていた時、祖父母4人が存命だった時の法定相続分はどうなりますか?
(妻子がいないとして回答します)
各自1/4ずつとなります。亡くなった人に妻子がいない場合、直系尊属が相続人となりますが、直系尊属が数人あるときは各自の相続分は等しいものとされています(民法900条4号)。このケースでは、亡くなった方の直系尊属として祖父母が4人いますので、各自1/4ずつとなります。
直系尊属に代襲相続はありますか?
ありません。代襲相続とは、本来、相続人となるべき者が、相続開始以前に死亡するなどして相続権を失った場合に、その者に代わって、その直系卑属が同一順位で相続人となる制度のです。
この代襲相続は、相続開始以前に、亡くなった人の子や兄弟姉妹が既に死亡するなどして相続権を失っていた場合などに、その子に認められており(民法887条2、3項、889条2項)、直系尊属の代襲相続は想定されていません。
子から親への相続というのは可能ですか?
可能です。
子が亡くなったときに、その子がいれば、子の子が先順位の相続人となりますが(民法887条1項)、子に子がいなければ、子の直系尊属が先順位の相続人となります。親は、子の直系尊属ですので、この場合は親が相続人となります。
なお、子に子がいる場合であっても、遺言書を作成して親に遺産を渡すことは可能です。
離婚して親権を放棄した子の財産は相続できますか?
できます。
親が、子が亡くなったときにその財産を相続できるのは、法律上の親子関係に基づくものですが、離婚して親権を失ったとしても法律上の親子関係が無くなるわけではありません。
子供が先に亡くなったが、遺言書には「父には財産を渡すが母(私)には渡さないとあった場合どうすればよいのでしょうか?
(子供の妻子がいないという前提で回答します)
遺言書に不備があれば、遺言書が無効であると主張して争うことが考えられます。遺言無効確認訴訟などにより、遺言が無効と判断されれば、1/2の相続分が認められることになります。
遺言書に不備がなければ、遺言書は有効ですので、父が子の財産を相続することになります。
ただし、遺留分の主張をすることができます。遺留分とは、一定の相続人が相続について法律上必ず取得することができるものとされている相続財産の一定の割合をいいます。直系尊属のみが相続人である場合、遺産の1/3が遺留分とされています(民法1028条1号)。
このケースでは、子供の父母のみが相続人ですので、子供の遺産の1/3が父母の遺留分となります。
したがいまして、母の遺留分は、1/3×1/2=1/6となりますが、父が子の全財産を相続すると、この母の遺留分が侵害されてしまいますので、母は父に対して侵害された1/6の遺留分の返還を請求することができます。
配偶者も子もいない養子が先に亡くなった場合養父母は相続できますか?
できます。
親が、子が亡くなったときにその財産を相続できるのは、法律上の親子関係に基づくものですが、養子縁組をすると、養子は縁組の日から、養親の嫡出子の身分を取得するとされ(民法809条)、法律上の親子関係が生じるものとされています。
なお、養子縁組をしても、養子とその実父母との法律上の親子関係は消滅しません。
したがいまして、養子の実父母が存命であれば、実父母も養父母と同順位の相続人となります。
ただし、特別養子縁組をした場合は、養子と実父母との法律上の親子関係は消滅しますので(民法817条の9)、養子の実父母は相続できなくなります。
子が亡くなったが離婚して全く会っていない場合相続はどうなりますか?
(子供の妻子がいないという前提で回答します)
親が、子が亡くなったときにその財産を相続できるのは、法律上の親子関係に基づくものですので、親が離婚して子に全く会っていなかったとしても、法律上の親子関係は消滅しませんので、相続することができます。
子が亡くなってしまったが親に遺産を渡すことが想定外だったため遺言書には親に関する相続の記載がなかった場合はどうすればよいのですか?
有効な遺言書がある場合、原則としてその遺言書の記載のとおりに遺産分割されます。
ただし、法定相続人全員が協議の上、遺言書と異なる内容の遺産分割をすることは可能とされています。
したがいまして、親に関する相続の記載がなかった場合、原則として子の遺産について相続することはできませんが、子の法定相続人全員で、親に子の遺産を相続させるという内容の遺産分割協議をすれば、親に子の遺産を相続させることも可能です。
また、このような遺産分割協議がまとまらなかった場合でも、子の遺言書のとおりに遺産分割をすることにより親の遺留分が侵害される場合には、親は遺留分を主張してその分の子の遺産を引き渡すよう請求することができます。