遺産分割の落とし穴と円満解決のための3つのポイント
ご家族が亡くなった後に遺産がある場合は、遺産分割をしなければいけません。ただ、遺産分割は日ごろ仲の良い家族であっても相続トラブルが起きることがあります。
今回は、遺産分割の落とし穴と円満解決する3つのポイントを解説します。
相続トラブルが起こりやすい遺産分割の落とし穴
遺産分割する際、「兄よりも弟の方が遺産が少ない」「不動産は実家だけなので家族で均等に遺産分割できない」「亡くなった父が多額の借金をしていることが判明した」など、様々な問題があります。
それでは、相続トラブルが起こりやすい遺産分割の落とし穴について、代表的なものをいくつか解説していきます。
①子ども(兄弟姉妹)が遺産分割する時の落とし穴
親が亡くなり、配偶者と子ども(兄弟姉妹)が遺産分割するケースについて解説します。
まず、遺言書がある場合は「息子Aに全財産を相続させる」など遺留分(相続の最低限の保障)が侵害されてないかを確認する必要があります。
配偶者と子ども(兄弟姉妹)だけで相続する場合、配偶者が2分の1、そして残りの2分の1を子ども(兄弟姉妹)の人数で割った割合が1人あたりの相続分となります。例えば、子ども(兄弟姉妹)が3人の場合は6分の1が相続分となります。6分の1の相続分よりも少なく遺産分割された場合(正確には、法定相続分の2分の1が遺留分)、相続トラブルが発生する可能性があります。このような場合は、多く遺産分割された兄弟姉妹に遺留分侵害額請求をして不足分の遺産を請求できます。
相続人が遺留分に相当する財産を受け取ることができない場合などの不公平が生じた時は、遺留分を侵害されている相続人は遺留分を侵害している他の相続人に対して侵害額を請求することができます。
なお、後ほど解説する遺産分割協議において、配偶者と子ども(兄弟姉妹)全員が合意すれば法定相続分以外の割合で分割することができます。
②実家を子ども(兄弟姉妹)が相続する時の落とし穴
両親が亡くなり、実家を子ども(兄弟姉妹)が相続するケースについて解説します。
子ども(兄弟姉妹)が全員実家を出て独立しており、誰も住んでいない実家だけが残った場合の相続方法です。
実家は幼いころから住んでいることも多いので、色々思い入れがあると思います。そして、相続するにしても子ども(兄弟姉妹)の誰かが住むのか、誰も住む人がいないなら売却するかなどの問題も発生します。
例えば、子ども(兄弟姉妹)が3人の場合、3分の1ずつの実家を共有分割します。
ただ、共有分割で相続トラブルになりやすいのが、相続人全員の同意がないと売却できないというルールになっていることです。
なお、共有分割以外の分割方法としては、以下の2つがあります。
1)代償分割
代償分割とは、例えば兄が亡くなった親の財産を多く相続したことで弟や妹に不公平が生じた場合、兄が弟と妹に現金を支払うことで調整する方法です。ただ、兄に相応の現金がない場合は代償分割をすることができません。
2)換価分割
換価分割とは、例えば実家などの不動産を売却して得た現金を相続人同士で分ける方法です。不要な不動産を相続した場合は、換価分割が一番公平な分割方法です。
ただ、遺産が実家の場合は、例えば相続人である子どもの誰かが住みたいと言うことがあり得ます。その場合は換価分割ができません。
③亡くなった親に借金があった時の落とし穴
現金や不動産などを相続するなら良いですが、遺産相続した後に、亡くなった親に借金があることが判明することもあります。亡くなった親の借金も遺産ですので相続しなければいけません。ただ、借金を相続するとなると相続する子ども(兄弟姉妹)の間で相続トラブルになる可能性が高いと思われます。
細かい話をすると、現金や不動産などをプラスの財産、借金などをマイナスの財産といいます。これらの財産すべてを相続することを単純承認といいます。特に何か問題がなければこの方法をとります。この単純承認は手続きの必要もなく、相続の開始を知った時から3カ月以内に後ほど解説する限定承認や相続放棄の手続きをしなければ自動的に単純承認したことになります。
なお、亡くなった親に借金があった時に、相続した財産の範囲内で借金を返済する方法があります。これを限定承認といいます。限定承認は、借金はあるが実家を残したいなどのメリットもあります。
それでは、事例を交えながら具体的に解説していきます。
借金が2,000万円、不動産評価額が800万円の実家があり、実家を手放したくない場合
⇒ この場合、800万円分の借金を返済すれば実家を残すことができます。
なお、実家を残す場合は先買権(さきがいけん)という方法を使います。
先買権とは、限定承認した実家が競売にかけられた時、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価額を支払うことで優先的に購入できる権利のことです。この先買権を使用できるのは限定承認のメリットです。なぜなら、先買権を使用できないと競売にかけられた時に実家が他人に買われてしまう可能性があるからです。
事例を見ると、「限定承認は便利かも?」と思う人もいるかもしれません。ただ、限定承認は手続きが面倒というデメリットがあります。「多額の借金はあるけど、どうしても実家を残したい」などの場合に検討してみると良いかもしれません。
④遺産分割して終わりではない相続税申告・納付の落とし穴
遺産分割して一段落したと思う人もいるかもしれませんが、相続税の申告・納付を忘れてはいけません。
相続税は、亡くなったご家族の相続開始日(死亡日)の翌日から10カ月以内に、亡くなったご家族の住所地の管轄税務署に相続税の申告・納税をします。この期間を過ぎると延滞税や加算税などのペナルティが課されることがあります。
ただ、必ず相続税を納めなければいけないわけではありません。相続する財産が以下の基礎控除を超えなければ相続税を納める必要はありません。
「申告が必要ない」「相続税がかからない」ボーダーラインとなる金額で、以下の計算式で算出した金額です。
<計算式>
3000万円+(600万円×法定相続人の数)
遺産分割で相続トラブルを防ぐ、円満解決の3つのポイント
相続トラブルが起こりやすい遺産分割の落とし穴について、代表的なのものを解説してきましたが、遺産分割で相続トラブルを防ぐ、円満解決するための3つのポイントについて解説していきます。
①遺産分割協議をスムーズにすすめる
ご家族が亡くなった後に遺産がある場合、残されたご家族(相続人)で遺産の分け方を話し合わなければいけません。相続人全員で遺産の分け方を話し合うことを遺産分割協議といいます。
この遺産分割協議をスムーズに進めることで相続トラブルを防ぐことができます。
それでは、遺産分割協議をスムーズに進める手順について解説していきます。
1)相続人調査
遺産分割協議は相続人全員で話し合わなければいけないので、誰が相続人なのかを調査する必要があります。このことを相続人調査といいます。
相続人調査をする時は、亡くなったご家族の戸籍謄本を本籍地の役所から取り寄せます。戸籍謄本には、亡くなったご家族の出生から、婚姻、家族関係などが記載されています。
2)相続財産調査
相続財産には、不動産や現金、有価証券などプラスの財産、住宅ローンや借金などマイナスの財産(負債)がありますが、相続財産がどのくらいあるのかと、相続財産の評価をすることを相続財産調査といいます。
3)遺産分割協議を実施する
相続人と相続財産を把握したら、遺産分割協議を実施します。遺産分割協議は必ず相続人全員でおこなう必要がありますので、相続人が1人でも欠けた状態で実施すると無効になります。
なお、必ず相続人全員が顔を合わせる必要はなく、遠方に住んでいて参加できない場合は電話やメールなどで話し合うことも可能です。重要なことは相続人全員が遺産分割協議に合意(賛成)しているかどうかということです。
4)遺産分割協議書を作成する
遺産分割協議で相続人全員が合意したら、遺産分割協議書を作成します。遺産分割協議書の作成方法に決まりはなく、パソコンで作成しても、手書きでも問題ありません。
作成する時は以下の3つがポイントになります。
・財産の内容と相続人を特定しておく
・相続人全員の名前を記載する
・印鑑証明を受けた実印を押す
そして、不動産であれば所在地や面積、預貯金であれば口座番号などを正確に書くことが重要です。
ここまで、遺産分割協議の解説をしましたが、もし遺言書がある場合は遺言書どおりに相続するのが原則です。ただ、遺産分割協議を行って、遺言書の内容と異なる遺産分割をすることも可能です。
②相続放棄も検討する
財産をすべて放棄し、一切相続しないことを相続放棄といいます。先ほど、亡くなった親に借金があったケースを解説しましたが、借金を相続したが、返済できず、実家なども残す必要がなければ相続放棄をすると借金返済を回避することができます。
相続放棄は限定承認と同様に原則として相続の開始を知った時から3カ月以内に手続きしなければいけません。
なお、相続財産に借金があり、相続放棄する場合に注意しなければならないことは、相続放棄すると次順位の相続人に相続権が移るということです。次順位の相続人に債権者から借金の催促が来て、トラブルが発生することもあり得ますので、亡くなった親の借金が原因で相続放棄する場合は、事前に他の相続人に連絡することをおすすめします。
③相続トラブルが深刻化する前に専門家に相談する
遺産分割協議、相続放棄などについて解説してきましたが、遺産分割協議、相続放棄ともに手続きが煩雑なため、初めて手続きする人は大変かと思います。
そして、相続トラブルが発生してしまった場合は相続人同士で解決しようと思うと早期解決どころか、相続トラブルが長引き深刻化する可能性があります。相続トラブルが深刻化する前に弁護士に相談することが円満解決の鍵かと思います。
まとめ
今回は、遺産分割の落とし穴と相続トラブルを防ぐ、円満解決するための3つのポイントについて解説しました。
遺産分割で仲が良かった家族が相続トラブルになるようでは、亡くなったご家族も悲しむと思います。そして、相続トラブルが発生した場合は残されたご家族のためにも円満解決が必要です。
もし相続トラブルが発生した場合は早めに弁護士に相談することをおすすめします。